英語の文法は正しい。単語も知っている。なのに、ネイティブに話すと「What?」と聞き返される。あるいは、分かってもらえているのかどうか、反応がいまいちはっきりしない。
この経験をしたことがある人は多いはずだ。文法的に正しい英語が、なぜ伝わらないのか。
原因① 直訳が生む不自然さ
最もよくある原因は、日本語の構造をそのまま英語に移してしまうことだ。
「お世話になっております」を "Thank you for taking care of me." と訳しても、英語話者には意味が通じない。ビジネスメールの書き出しとして使われる定型句だが、英語にはそもそも対応する表現がない。英語では "I hope this email finds you well." や単純に "Thank you for your time." で始める。
「よろしくお願いします」も同じだ。"Please treat me well." と直訳しても、英語話者には奇妙に聞こえる。場面によって "I look forward to working with you." や "Thank you for your help." に変える必要がある。
文法が正しくても、発想が日本語のままだと、英語としての自然さが失われる。
原因② あいまいな主語と動詞
英語では「誰が」「何をする」を明確にしなければならない。日本語は主語を省略できるが、英語でそれをやると意味が取れなくなる。
「検討します」という返答を英語にするとき、"Will consider it." では不完全だ。誰が考えるのかが抜けている。"I'll look into it." または "We'll consider your proposal." のように、主語と具体的な動詞を入れて初めて意味が伝わる。
また、「〜と思います」を "I think 〜" に統一している人も多いが、英語には微妙なニュアンスを表す動詞が豊富にある。"I believe"(確信がある)、"I feel"(感覚的に思う)、"I suppose"(なんとなくそう思う)。文法的にはどれも正しいが、使い分けで伝わるニュアンスが変わる。
原因③ フォーマルとカジュアルの混在
日本人の英語は、フォーマルな表現とカジュアルな表現が混在しがちだ。英語学習の教材は書き言葉が多いため、自然と硬い表現を覚えてしまう。
友人との会話で "I would appreciate it if you could inform me of the schedule." と言っても、内容は通じるが、堅苦しくて場の空気が凍る。カジュアルな場では "Can you let me know the schedule?" で十分だ。
逆に、ビジネスの場面でスラングや口語表現を使うと、信頼感を損なうこともある。文法の正しさと同時に、場面に合った言葉のトーンを意識する必要がある。
原因④ 情報の順番が英語的でない
英語は結論を先に言う。日本語は結論が最後に来る。この順番の違いが、伝わりにくさを生むことがある。
「昨日、同僚と話していて、プロジェクトの進め方について意見が合わなくて、少し困っています」という日本語的な話し方を英語にそのまま訳すと、相手は「で、結局何が言いたいの?」となりやすい。英語なら "I'm having trouble with a colleague. We disagree on how to run the project." と、まず問題を言ってから背景を説明する。
文法を超えて「英語らしさ」を鍛える
文法が正しいことは、伝わるための最低条件だ。しかしそれだけでは十分ではない。英語らしい発想、英語らしい語順、英語らしいトーン。これらは、英語の文章や会話に大量に触れながら、実際に自分で英語を産出する練習を通じてしか身につかない。
日本語を見て英語に変換する練習を繰り返すと、直訳では通じないことに自然と気づいていく。答え合わせで模範解答を見るたびに、「英語らしい表現」がどういうものかが蓄積されていく。文法の正しさの先にある、本当の意味での英語力は、こうした地道な繰り返しの中で育っていく。